電子契約は収入印紙が不要!3つの根拠や導入のメリットなどを解説
電子契約を導入したいなら、収入印紙が必要かどうか気になる方もいるのではないでしょうか。電子契約は書面契約とは異なり、印紙税の課税対象ではないため、収入印紙が不要です。
本記事では電子契約に収入印紙が不要な根拠や、導入するメリットなどを解説します。ぜひ参考にしてみてください。
電子契約を導入する前の基礎知識
まず電子契約の基礎知識を把握しておきましょう。
電子契約とは
電子契約とは、従来の書面で契約を締結する方法ではなく、電子的な手段で合意された契約のことです。電子データに電子署名をすることで、法的証拠力が認められ契約が締結されます。
オンライン上で契約手続きが完了するため、書面の印刷は不要です。契約書を郵送して手続きを行う書面契約よりも、スムーズに手続きを進められます。
収入印紙とは
収入印紙は、契約書や証書など公的文書に貼り付けて使用する証票のことです。国が発行しているものであり、文書に貼ると法的に有効であることが証明されます。
収入印紙は郵便局やコンビニエンスストアなどで購入が可能です。書面で契約を交わす場合は、収入印紙が必要になります。
印紙税とは
印紙税は、契約書や預貯金証書などの課税文書に対して、国が定める税金のことです。文書に貼付する収入印紙の額面に応じて課税されます。
例えば、請負に関する契約書の課税額は以下のとおりです。
課税額 |
|
1万円未満 |
非課税 |
100万円以下 |
200円 |
100万円超え、200万円以下 |
400円 |
200万円超え、300万円以下 |
1,000円 |
300万円超え、500万円以下 |
2,000円 |
500万円超え、1,000万円以下 |
1万円 |
1,000万円超え、5,000万円以下 |
2万円 |
5,000万円超え、1億円以下 |
6万円 |
1億円超え、5億円以下 |
10万円 |
5億円超え、10億円以下 |
20万円 |
10億円超え、50億円以下 |
40万円 |
50億円以上 |
60万円 |
契約金額の記載がない契約 |
200円 |
引用:印紙税額の一覧表|国税庁
電子契約は収入印紙が不要!3つの観点から考える根拠
ここからは、なぜ電子契約は収入印紙が不要になるのかを3つの根拠から紹介していきます。
印紙税法基本通達
まず印紙税法の第三条によると、印紙税の対象になるのは課税文書です。課税文書を作成するかどうかで、収入印紙の有無が異なります。
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
国税庁が公開する印紙税法基本通達の第44条では、課税文書の作成を以下のように定義しています。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
上記のように、用紙等に課税事項を記載して行使することを「課税文書の作成」に該当するとしています。電子契約は用紙が不要なため、課税文書に含まれないことから、印紙税の課税がされず収入印紙が不要です。
国税庁の見解
電子契約の収入印紙の有無は、コミットメントライン契約に関する国税庁の回答からわかります。コミットメントラインとは、あらかじめ企業と銀行が取り決めた範囲で所定の審査を経ず随時融資を受けられる契約です。
国税庁はコミットメントライン契約で作成する文書に対する印紙税の取り扱いについて、以下のように回答しています。
請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。
また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。
今回のケースはコミットメントライン契約についてですが、文書を電子メールで提出する場合は、書面での交付がないため、印紙税の課税対象になりません。
国会の答弁
第162回国会答弁(2005年)において、電子文書に関する課税について、以下のような回答がありました。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
国会の答弁では電磁的記録によって作成された文書は、印紙税が課税されないと回答がありました。このことから、電子契約は印紙税の課税がされないため収入印紙が不要です。
ただし、今後の状況によっては、電子契約が印紙税の課税対象になる可能性があります。
収入印紙が不要なこと以外の電子契約のメリット
電子契約は収入印紙が不要になりますが、それ以外にもメリットがあります。
契約のコストを抑えられる
電子契約は、メールでファイルを送信するだけで契約手続きを進められます。書面契約で必要になっていた印紙税、文書の印刷、封筒代、郵送などのコストを削除することが可能です。また、契約書を郵送する作業や、書面を探す手間を削減できるため、人的コストの削減にもつながります。
スムーズに契約を進められる
電子契約の特徴は、インターネット上で契約手続きが完結することです。具体的には、取引先に電子契約のURLが記載されたメールを送信します。取引先は受信したメールに記載があるURLをクリックし、内容を確認して契約・承認などを行うと契約締結が完結します。
電子契約は契約書を取引先に郵送したり、手渡しをしたりする必要がないため、場所を問わず手続きが可能です。スムーズに手続きが進み、早ければ即日で完了できるでしょう。
保管が容易になる
電子契約で締結した契約書は、インターネット上に保存されます。必要な契約書を確認する際は、検索機能を活用すると素早く見つけることが可能です。
また、紙の文書のように保管スペースを必要としません。文書の紛失を回避でき情報漏洩の対策にもつながるでしょう。
電子契約を導入する際の注意点
電子契約を導入する際は、メリットだけでなく注意点もあります。
全文書が電子契約に対応するとは限らない
電子契約は、全ての文書に対応するわけではありません。
例えば、以下のような文書は、電子化ができません。
- 訪問販売等特定商取引における交付書面
- 事業用定期借地契約
- 任意後見契約書
上記のように、法令で書面の作成が義務付けられている文書には注意しましょう。
電子契約書は印刷しても印紙を貼る必要はない
印紙税の課税対象になるのは、課税文書の原本です。電子契約書のコピーは課税文書の原本ではないため、収入印紙が不要です。
ただし、印刷した電子契約書を原本として扱う契約をした場合は、印紙税が必要になることに注意しましょう。
電子契約書の保存には要件がある
令和5年12月31日までに行う電子取引は、保存する電子データ(契約書や請求書など)をプリントアウトして保存し、税務調査等で提出できるようにすれば問題ありません。
しかし、令和6年1月以降は、電子データを保存要件に従って保存する必要があります。
具体的な保存要件は、以下のとおりです。
- 改ざん防止の対策をする:タイムスタンプの付与、履歴が残るようにする
- 日付・金額・取引先で検索できるようにする:索引簿を作成する、規則的なファイル名を設定することでも対応可能
- ディスプレイ・プリンタ等を備えつける
スムーズに対応できるように準備しましょう。
還付金を受け取れないケースがある
企業では過去の書面の契約書を電子化するケースもあるでしょう。その際に、印紙が張り付いている書面を電子化すると、還付金を受けられない可能性があります。
印紙税の過誤納還付申請を行う際は、過誤納になった事実を証明する文書(原本)の提示が必要です。契約書を電子化した後に原本(紙の文書)を破棄してしまうと、スキャンデータでは過誤納還付を受けられないことに注意しましょう。
電子契約の導入を進める流れ
スムーズに電子契約を導入するために、具体的な流れを把握しましょう。
法務部門の現状を確認する
電子契約を導入するなら、現状をヒアリングして改善点を明確にしましょう。改善点を発見できれば、効果的な電子契約システムを選定しやすくなります。さらに、システム導入後の効果を比較することが可能です。
また、電子契約をどのように業務に活用できるのかを検討します。例えば「どの契約書を対象にするのか」「どの業務フローを改善するのか」などが挙げられます。
電子契約システムを選定する
現状を分析したら、どの電子契約システムを導入するのか決めましょう。導入するシステムによって費用や機能などが異なります。自社の課題、予算、セキュリティなどの要件に合う電子契約システムを選定してみてください。
業務フローを見直す
電子契約システムを導入することで、既存の業務フローが変わります。スムーズに移行できるように、業務フローを変更したり社内の体制を整備したりしましょう。
社内・社外に周知する
社内・社外の契約締結フローが変更されるため、周知させることが大切です。電子契約に置き換えることで、相手側で実施する作業が発生します。社外への周知は欠かさず行い、必要な登録を依頼したり、操作方法を共有したりしましょう。
必要に応じて、操作マニュアルを作成して共有すると、初めての利用でもスムーズに使いこなせます。
電子契約の収入印紙【まとめ】
ここまで電子契約に収入印紙が不要な根拠やメリットなどを解説しました。国税庁の見解や国会の答弁などから、電子契約が印紙税の課税対象ではないとされています。
また、電子契約を導入する際は、収入印紙が不要なこと以外に、コスト削減やスムーズな手続きができるといったメリットがあります。電子契約を導入するなら、本記事を参考にしてみてください。