TCO削減でITコストを最適化!含まれる費用もわかりやすく解説!
近年、多くの企業がTCOの削減に注目しています。しかし、どうすればTCOを削減できるのかわからないという方も多いのではないでしょうか。本記事を読むことで、TCOに含まれる費用や計算の仕方、削減するための具体的な方法や事例がわかります。ITコストを最適化することで企業の発展につなげましょう。
TCOとは
TCOはTotal Cost of Ownershipの略称で、ITシステムの導入や運用に関わるコストの総額のことで、日本語では「総保有コスト」と呼ばれます。具体的には以下をご覧ください。
- 導入費用:電子機器やソフトウェア代金など
- 運用費用:サーバー管理、アプリケーション管理、保守費用など
- 維持費用:ソフトウェアのアップグレード、ハードウェアの交換費用など
- 拡張費用:新しい機能の追加費用など
- 廃棄費用:ITツールを廃棄するための費用
- 機会費用:システムダウンにより受注停止した際の損失など
TCOを試算することで費用を明確に把握し、適切な製品やサービスを選択することができるようになります。
TCO削減が重要視される背景
現在は、TCOの視点に立ってコスト削減を行うことが求められています。過去には、電子機器やPCソフトなどの購入費用に重きが置かれていました。しかし、現在ではクラウドサービスなどの普及により初期費用は比較的低くなっている反面、買い切りではなく月額課金のため購入後の運用費用が増加傾向にあります。
したがって、全体的なコストを考慮するTCOの重要性が高まってきているのです。導入費用だけでなく、維持費を含めて総合的に算出することで、より正確な削減策を導き出しましょう。
TCOとLCCとの違い
TCOとよく似た概念にLCCがあります。LCCはLife Cycle Costの略称で、「生涯費用」のこと。製品やサービスの設計、製造、運用、保守、廃棄などのライフサイクル全体にわたるコストを総合的に把握するための考え方です。
TCOは製品の所有期間に発生するコストを計算する一方、LCCは製品を購入する前の構想や企画段階にかかった人件費なども含めて費用を表す点が大きな違いです。金額としては当然、LCCの方が高くなります。
TCOに含まれるコスト
TCOには「目に見えるコスト」と「目に見えないコスト」があります。前者が氷山の一角とするなら、後者は水面下に隠れて見えない氷部分をイメージしてください。当然、購入するツールによって割合は変わってきますが、一般的には隠れて見えないコストの方が高いです。
目に見えるコスト |
初期導入コスト |
ハードウェア購入費 ソフトウェア開発費 システムの構築費用など |
目に見えないコスト |
運用管理コスト |
消耗品の費用 システムの保守点検費用 ソフトウェアの月額使用料 利用者の教育に関わる人件費 システム運用管理者の人件費など |
機会損失コスト |
システムにトラブルが生じた際の修理費 システムの復旧に要する人件費 トラブルによるビジネスの機会損失費用 |
目に見えるコスト
ITツールの購入費用など。あらかじめ金額が明確になっているため算出しやすいのが特徴です。
どのような製品を購入するかによってランニングコストも変わってくるため、重要な要素といえるで
しょう。
目に見えないコスト
運用管理費コストや機会損失コスト、製品の維持費や人件費などが含まれます。また、システムの故障に対応するためにかかった修理費や、それに対応した社員の人件費も。目に見えない分、見逃されやすいので、できるだけ正確に把握するように努めることがTCO削減のキモといえるでしょう。
TCOの計算方法
TCOは、対象のデバイスやシステムにかかわる費用をすべて足し合わせることで算出します。購入の費用だけでなく、運用にかかった人件費、故障したときに失った売上などの見えにくいコストまで、すべて洗い出して合計額を出します。具体的なイメージをつかむために、PCを1台購入した場合の3年間のTCOを試算してみましょう。社員の人件費は2,000円と仮定します。
- 15万円のPCを購入:15万円
- ネット回線の契約:月額5,000円×36か月=18万円
- 年間1万円のウイルス対策ソフトを契約:1万円×3年間=3万円
- 使用中にPCが故障し担当者が対応:人件費2,000円×2時間=4,000円
- PCの修理費:5万円
- 故障中に通常業務ができなかったことで失った売上:5万円
- パソコンの廃棄費用:3,000円
合計:46万7,000円
PCは15万円にもかかわらず、3年間のTCOは3倍ほどに。上記はごくシンプルな例ですがTCOを把握する重要性がわかるはずです。
TCO削減のメリット3つ
企業がTCOを削減するメリットは大きく3つあります。
利益率改善
企業がTCOを削減することで、利益率を改善することが可能です。なぜなら、TCOを削減することで、売上に対するコスト比率が小さくなるから。特にIT投資が増加すればするほど、TCO削減によるインパクトが大きくなります。
また、2021年度のIT投資額は前年度より4.5%増加し、13兆5,500億円にも上ると矢野経済研究所は推計しています。
例えば、テクノロジーの進化により、ビジネスプロセスの自動化や効率化が可能になったことで、多くの企業がITに対する投資額を増加させています。また、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、テレワークに関するITインフラへの投資が拡大しています。このようなIT投資が右肩上がりにある背景から、企業がTCOを削減することは、利益率を改善するための重要な手段なのです。
コスト削減で失敗しにくくなる
TCOでは、初期費用だけではなく、目に見えにくいランニングコストも考慮するため、目先の安易なコスト削減で失敗しにくくなります。たとえば、企業がシステムを導入する際に、150万円の製品Aと50万円の製品Bがあったとします。維持費は、製品Aが月10万円、製品Bが月20万円。
この場合、初期導入費用だけを考えると、製品Bの方が100万円(A150万円-B50万円)安いです。一方、1年間の総額で考えると製品Aの方がコスト的に優位だと判断できます。
- 製品Aは270万円:導入費150万円+維持費120万円(10万円×12か月)=270万円
- 製品Bは290万円:導入費50万円+維持費240万円(20万円×12か月)=290万円
製品の購入代金のみを判断基準にするのではなく、長期的な視点に立って意思決定できる点がTCOのメリットです。
企業の成長に貢献する
TCO削減は、企業の成長に貢献する点も大きなメリットといえるでしょう。TCOを削減することで、企業は投資効果を最大限に引き出すことができ、ビジネスプロセスの改善や業務効率化を実現することが可能です。結果的に、企業は市場競争力を高め、成長につなげることができます。
例えば、製造業においては、製品を生産するために必要な機器や設備のメンテナンス費用を削減することで、生産性を向上させることができます。将来的なコストを見据えて戦略的に投資を行うことが企業の成長につながるのです。
TCO削減のポイント
TCOを削減するときに抑えておきたいポイントを2つ紹介します。
「導入時・入れ替え時期」がおすすめ
TCO削減を検討するタイミングは、ITツールの導入時と入れ替え時がおすすめ。導入時や入れ替え時は、コストが新たに発生する前なので、前もってTCOを算出することで、最適な意思決定ができるようになるからです。
たとえば、オンプレミスからクラウドへ移行することで費用を大幅に削減できます。オンプレミスとは、企業が自社内でサーバーやソフトウェアなどの情報システムを所有し、運用・管理する形態のこと。サーバー機器や設置施設が必要なくなるため、保守点検業務も不要になり、大幅なコストカットが可能になります。
今後の変化を考慮する
TCOを削減するうえで重要なポイントが、今後の変化を考慮して意思決定すること。人間は誰しも目先のコストばかりに目が向いてしまいがちですが、長期的な視点で判断することが求められます。
具体的には、社員数の増減、扱うデータ量や拠点など、将来的に変化する要素も考慮に入れ、あらかじめ見通しを立てたうえでTCOを削減しましょう。
TCO削減の方法
以下に代表的な削減の方法を5つ紹介します。
サーバーを統合
サーバーを複数箇所に設置している場合は、中央に大きなサーバーを設置し統合することで一括管理できるようにしましょう。支店や部署ごとにサーバーが設置されていると、サーバーごとにそれぞれ管理者が必要になり、コストが増える一方です。よって、サーバーを統合することが管理コストの削減につながります。
最近ではメールサーバーの統合を進めている企業が増加傾向にあります。
IT機器のメーカーや機種を統一する
PCなどのITツールのメーカーや機種を統一することでTCOを削減するという手法も効果的といえるでしょう。なぜなら、取り扱うメーカーや機種にばらつきがあると、保守管理コストが増えてしまうから。また、導入する取引先を数社、できれば1社に絞ることで購入時に単価交渉もしやすく、初期費用を抑えることが可能です。
保守費用やアップグレード費用などの運用費用を考慮して取引先の窓口を絞ることがTCOの削減につながります。
保守・運用方法を見直す
保守・運用方法を見直す方法は2つあり、アウトソーシングするか運用管理ツールを導入するかです。自社で保守・管理業務を行うのではなく、アウトソーシングすることで人件費や設備投資などのコストを削減できます。また、運用管理ツールを導入することで、運用管理の自動化や監視、障害発生時の自動対応などが可能になり、人件費や作業時間の削減に期待できます。
ヘルプデスク設置
パソコンなどのトラブル対応や問い合わせ対応、初歩的な操作教育などは、ヘルプデスクを設置し、一元的に対応することが効果的。また、部門内にOAリーダーを配置してもよいでしょう。ヘルプデスクを設置できない場合は、派遣社員の受け入れやアウトソーシングも検討し、TCOを最適化しましょう。
クラウドへの移行
SaaSに代表されるクラウドサービスはTCOの削減に効果的。SaaSとは、Software as a Serviceの略称であり、使用料を払うことで、必要なときにクラウド上にあるソフトウェアを利用できるという仕組みです。自社で保守・管理する必要がないため、運用コストが削減できるのです。さらに、クラウド上にあるソフトウェアは常に最新版が提供されており、セキュリティ上のリスクも低減されます。
TCO削減の取り組み事例2つ
JR東日本|2023年から改札をセンターサーバー化
JR東日本は自動改札機のシステムをセンターサーバー化すると発表。従来は、運賃改訂を行った場合、各駅の自動改札機に搭載された運賃計算プログラムをすべて個別に書き換える必要がありました。この作業には多くの人件費や手間がかかっていました。
しかし、自動改札機のシステムをセンターサーバー化することで、一箇所で集中管理できるように。つまり、センターサーバーの運賃計算プログラムをアップデートするだけで、全国の自動改札機に反映でき、人件費や手間を大幅に削減することができるようになるのです。
参照元:JR東日本
トヨタ自動車|故障保全から予防保全にシフト
自動車製造工場で使用される機械などの保全方法を、従来の故障保全方式から予防保全方式に切り替えることで、自動車の品質向上とTCOの低減に成功しました。故障が起きてから修理を行う故障保全方式では、故障発生時の損失が大きくなることが課題でしたが、定期的な整備による予防保全方式に移行することで、故障が起きる前に製品の健全性を維持することができました。
この取り組みにより、品質向上とコスト削減の両方を実現し、より競争力のある企業へと成長していくことができたと言えます。
参照元:トヨタ自動車
TCO削減の方法やポイント、含まれる費用などについて説明しました
今回の記事では、TCOには初期費用だけでなく運用コストなども含まれることをお伝えしました。そして、ITツールの新規導入時や入れ替え時はTCO削減を検討する重要なタイミングです。将来的にかかる費用を総合的に判断して最大限のコストメリットを得られるように戦略を立てましょう。